Example活用事例

地域や学校などのコミュニティで「逃げトレ」を利用して避難訓練をした事例です。参考になる事例があれば、お互いに良い ところを取り入れながら防災力を高めていきましょう。

事例1自分で考え、自分で試すオリジナル避難訓練

自宅から避難タワーまで、ふだん歩くスピードで実際にどのくらい時間がかかるのか、津波に追いつかれず逃げ切れるかを検証。避難先を決めていても実際に避難してみることで、さらに考えておくべき気づきがあった。

日 時 2017年9月3日(日)
場 所 高知県 四万十町 興津地区
参加者 地元の高齢者
人 数 1名


逃げトレをスタートした様子

逃げトレで、津波の様子を確認しながら避難する様子

津波避難タワーに上る様子

 逃げトレを使えば、たった一人でも、思い立ったときに避難訓練ができます。自分で考え、自分で試す、自分だけのためのオリジナル訓練です。
 この事例では、訓練者は近くの津波避難タワーまで逃げようと考えていました。でも、歩いて、あるいは走って、実際にどのくらい避難に時間がかかるのか、また、津波がやって来るまでに逃げ切れるのかはわかりませんでした。そこで、「逃げトレ」を使い、ふだん歩くスピードで、自宅から避難タワーまでの避難を検証してみました。自宅が商店なので、ドアを施錠したり、お金を管理する時間を考慮して、地震発生後から10分後に避難を開始する設定にしました。
 その結果、津波に追いつかれるまで、数分の余裕を持って避難することができました。しかし、実際の災害時には何が起こるかわかりません。すぐに避難開始できるようにふだんから準備しておくこと、少しでも速く歩けるように練習しておくことの大切さに気づきました。

事例2スマホが苦手な高齢者も高校生のアシストで前向きに

高齢者が中心の地域の避難訓練を、地域活動の支援に取り組んでいる高校生が逃げトレを使ってアシスト。 訓練に後ろ向きな高齢者の参加のきっかけになり、高校生は高齢者の避難を実感できた。

日 時 2016年12月18日(日)
場 所 高知県 須崎市
参加者 地元の高齢者・地元の高校生
人 数 約20名


高校生がスマホの操作や階段の補助を行いながら避難する様子

高校生がスマホの操作や階段の補助を行いながら避難する様子

 「逃げトレはよくできているけど、スマホの苦手な高齢者には不向き」。こんな声を聞きます。たしかにそうです。それならばと企画したのが、この事例です。地域活動の支援に取り組んでいた地元の高校生に、高齢者が中心の地域の避難訓練を、スマホをもった高校生に応援してもらったのです。数人で一緒に避難するなら、全員が「逃げトレ」を使う必要はなく、その中のだれかが操作できれば十分だからです。
 また、高齢者の中には、「体力がないし」、「もうあきらめてる」と、訓練参加自体に後ろ向きの方もいます。高校生から「ちょっと変わった訓練をしますから参加してみませんか」と呼びかけてもらえば、「じゃ、出てみるか」と参加してくれる人も出てきます。
 高齢者からは、「高校生たちが熱心でありがたかった」といった感想が、また高校生からは「お年寄りの歩くスピードを実感できました」といった感想が寄せられました。

事例3自転車と徒歩、2つのルートでどちらがよいか比較検証

海沿いの練習場から約3キロ離れた大学まで、自転車チームと徒歩チームに分かれて避難。 逃げトレでは津波が浸水してくる様子が見えるので、避難の成功失敗に影響するルート選びの重要性が体感できた。

日 時 2018年2月17日(土)
場 所 大阪府 堺市
参加者 大学生
人 数 5人


自転車チームと徒歩チームの避難経路と所用時間

避難訓練の様子

訓練結果を振り返る

 逃げトレを使えば、いろいろな避難方法のどれがよいのか比べることもできます。この事例では、歩いて(走って)逃げるのと自転車で逃げるのとどちらが良いのか、またどのくらい違うのかを検証しました。
 参加してくれたのはある大学の女子ソフトボール部の大学生たち。ふだん、大学から約3キロ離れた海沿いの練習場に自転車で通っています。訓練では、その練習場から、自転車チームと徒歩チームに分かれて大学まで避難してみました。
 その結果、自転車チームはわずか10分で大学までたどり着きましたが、なぜか「避難失敗」という結果になりました。逃げたルートがよくなく、河川を遡上してきた津波に行く手を阻まれたのが、その理由でした。一方、徒歩チームは40分かけて無事ゴール。自転車と違って、「逃げトレ」の画面で浸水状況を随時確認していたことが功を奏しました。ちなみに、「逃げトレ」を、車を使った避難訓練で利用した事例もあります。

事例4災害時要配慮者の避難対策にも効果的

事業所職員が近隣の高齢者福祉施設に立ち寄り、入居者の車いすを押して、避難場所まで一緒に逃げる訓練。 要配慮者を支援した場合、どの程度+αの時間を必要とするかなど、具体的な反省点を確認できた。

日 時 2018年2月25日(日)
場 所 大阪府 堺市 西区
参加者 大学生・地元事業所・地元デイサービス施設
人 数 約20名


車いす避難の補助をしながら訓練をしている様子

検証会の様子

 災害時要配慮者は、健常者に比べてより多くの時間を避難に必要とします。当然、実際の災害時には多くの支援が必要です。要配慮者を支援しながら避難した場合、そうでない場合と比べて、どの程度プラスアルファの時間を必要とするのでしょうか。こんなことも「逃げトレ」を使えば、現実の訓練を通して確認できます。
 この事例では、近隣の事業所職員が高齢者福祉施設に立ち寄り、入居者が乗った車いすを押して、避難場所まで一緒に逃げる訓練を行いました。比較のために、自分たちだけで避難するチームなども作りました。施設側にもスムーズに支援を受けるための体制をとっておく必要があること、地震後の道路が車いす移動に与える悪影響など、いくつもの発見・反省がありました。
 なお、本訓練は、地区で行われた一斉避難訓練(事例⑥参照)の一部として実施されました。

事例5ほぼ同じ距離の2つのタワー、どちらがよいか比較検証

児童館の近くに、ほぼ同じくらい離れた場所にある2つの津波避難タワー、どちらに逃げるのがよいのか検証。 いざという時に迷わないように、いくつかの可能性を検証し、保護者への方針説明の根拠にすることができた。

日 時 2016年9月
場 所 高知県 黒潮町
参加者 児童館の子ども会に参加している児童と職員
人 数 約20名


避難の比較

タワーに駆け上がる様子

 適切な避難場所がないことは一番の問題ですが、避難可能な場所が複数ある場合、逆に、どこに逃げるのがよいのかという問題が生じる場合があります。
 この事例の場合、児童館(児童が放課後の時間を過ごす施設)の近くに津波避難タワーが2基ありました。この2基はほぼ同じくらい離れた場所にあり、一つは、距離的にはわずかに近いのですが、海に向かって移動することになり、もう一つは、海を背にして避難できますが、距離的には少し遠い場所にあります。
 2つのチームを作り、それぞれ逃げトレを使って、2つの避難タワーまで逃げてみました。より短時間で避難できたタワーを第1候補とすることになりました。もちろん、災害時にはこの限りではなく、臨機応変な対応が求められますが、しっかりした根拠をもって、児童館として保護者に災害時の対応方針を説明することができました。その後、近くの高台まで逃げた場合の課題や可能性についても「逃げトレ」を使って検証しました。

事例6数百人が一度に! 地域一斉津波避難訓練

参加者がそれぞれ自宅などから、逃げトレ片手に避難。マンネリの一斉訓練が、臨場感のある新しい一斉訓練に。振り返りの検証会では、自分の結果だけでなく、参加者が地区全体の様子を知ることができた。

日 時 2018年2月25日(日)
場 所 大阪府 堺市 西区
参加者 地域住民
人 数 地域


避難訓練結果ログデータ

検証会の様子

 「逃げトレ」は、数百人が一度に参加するような一斉避難訓練でも、もちろん利用できます。事前に、自治体の広報チラシや、地区の役員会等を通して「逃げトレ」のダウンロード方法、利用法をお知らせし、当日は参加者がそれぞれ自宅などから、スマホ片手に避難場所まで逃げる方式です。
 それまでの避難訓練にマンネリを感じ、臨場感がない、リアリティがないといった感想をもっていた地域住民に「逃げトレ」を使ってもらうことで、訓練に新しい風を吹かせることができます。
 訓練の直後、避難場所に集まった多くの参加者に対象として検証会も開催しました。検証会の主役は、多くの人が逃げていく様子が一目でわかる「集団訓練結果表示ツール」です。これによって、参加者は、自分の訓練結果だけでなく、「あの道が混雑するんだ」といった、地区全体の様子も知ることができます。

事例7避難訓練のその先へ。家具固定と屋内避難訓練

災害時にも逃げトレ時に決めた避難準備時間内に、家から避難を開始できるように家具固定を実施。逃げトレを通して、他の防災活動に対するモチベーションを高めることにもつながった。

日 時 2017年
場 所 高知県四万十町興津地区
参加者 地域住民(高齢者)
人 数 1人


訓練のスタートは、普段すごしているところから開始

玄関で靴をはきます

避難のための家具固定が必要な個所を確認します

 「逃げトレ」では、地震が発生してから実際に避難を開始するまでの時間を、たとえば「10分」のように、最初に入力することになっています。その上で、自宅の玄関から目指す高台まで避難してみて、何とか津波から逃れられそうだとわかったとしましょう。しかし、多くの場合、こんな課題がまだ残されていることに気づきます。それは、本当に、大きな揺れからわずか10分で避難を開始できるのかという問題です。
 このとき、特に問題になるのが、室内の状況です。幸い、家屋に大きな損傷がなかったとしても、寝室等から玄関まで経路を倒れた家具がふさいでいるかもしれません。最悪の場合、大きな家具が自分に覆い被さっているかもしれません。
 「家具固定をしてください」という呼びかけだけでは、なかなか行動に結びつきません。そこで、この事例では、「なぜ、何のために家具固定をする必要があるのか」を「逃げトレ」を使った避難訓練を通して体感してもらい、その上で、家具固定のプログラムを進めました。
 このように、「逃げトレ」は、避難場所への避難行動本体の改善に役だつだけでなく、訓練から得られた情報をもとにして、他の防災活動に対するモチベーションを高めることにも効果を発揮します。

事例8保護者(小学校PTA)による登下校経路確認

もし登下校の時間帯に災害が起きたらという想定で、避難経路を確認するワークショップを開催。日常使っている通学路が避難経路としての妥当なのかを具体的に検証することができた。

日 時 2017年7月4日
場 所 千葉県 いすみ市 太東小学校
参加者 小学校PTA
人 数 7人


PTAワークショップの様子

避難訓練の様子

訓練結果を確認している様子

 災害が発生した時、子どもたちが、学校や家庭など、常に大人の目が届く範囲にいるとは限りません。登下校の時間帯もその一つです。子どもの居場所はさまざまですから、当然、避難場所やそこへと向かう道も、時と場合に応じてさまざまに変わることになります。
 この事例では、「もし登下校中、子どもたちだけで行動しているときに、災害が起きたら」という想定で、小学校PTAの保護者に、「逃げトレ」を使って、いろいろな場所からいくつかの避難場所へ逃げてもらい、それぞれの距離や所要時間を測り、避難経路と津波浸水範囲との関係を確認してらうワークショップを開催しました。多くの避難経路は、自分の子どもたちが日常使っている通学路でもあり、その危険性を確認する目的もありました。
 「逃げトレアルバム」に記録された避難経路マップ、避難所要時間、移動距離、平均歩行速度などを参考にしながら、避難経路の検証作業を行いました。その結果、ある経路は、所要時間が長く、倒木などで通れなくなる可能性があることがわかりました。別の経路は、所要時間は短いけれど、上り坂が急で、車が多く、お年寄り、子どもの避難には、注意が必要だという結論になりました。

事例9大人と子どもで地域の安全点検

大人と子どもが一緒に「逃げトレ」しながら、まちの危険箇所の点検活動を実施。それぞれの視点での気づきや想定外の事態への対応を共有し、ひと味違った点検活動と避難訓練になった。

日 時 2018年9月14日
場 所 高知県黒潮町
参加者 児童館の児童・職員、地域住民、
    町民館職員、学校教員
人 数 25人


通行止め看板を見て、迂回し始める様子

危ないと思った道で、頭を守りながら避難する様子

ふり返り会の様子

「逃げトレ」を使った訓練は、地域の安全点検と組み合わせることもできます。よくある「まち歩き」による危険箇所の点検活動を「逃げトレ」を利用してひと味ちがったものにしようとする工夫です。
 ここで紹介する事例は、児童館が主催する子ども会のメニューの一つとして実施されました。子どもは、大人が考えているよりもたくさんの道をふだん使っていたりします。「こっちの小道の方が高台まで近道だよ」のように。逆に、大人の目には大したことがないように映るブロック塀が、子どもの目線にはとても高く感じられることもあります。
 この事例では、子どもだけでなく大人も参加し、「逃げトレ」を片手に一緒に避難しました。その後、振り返りの場をもつことで、それぞれの気づきを共有することを目指しました。また、各所に、ブロック塀の倒壊などを想定して、「ここでは通行止め」の看板を持った住民に立ってもらい、想定外の事態に対する対応を学ぶためのプログラムも企画しました。迂回したり、逆戻りしたり、みんな苦戦しながら高台まで避難しました。
 振り返りの会では、「いろんな道を歩いて、自信を持つことができた。」「たくさん危ないところがあった」、「逃げている時に予想外(通行止め)のことがあったけど逃げれて良かった、ホントの地震はちゃんと逃げたい」といった言葉が聞かれました。